、おくびょうでなきむしだが、
ムーミントロールといっしょに旅にでる。
小さな動物のスニフは、岩山のてっぺんをひとりでぶらついている子ねこを見つけました。
黒と白がまだらになっているねこで、とても細いしっぽを、ぴんとはねあげていました。スニフは、うれしくてうれしくて、むねがしめつけられるほどでした。
「 ねこちゃん。にゃんこちゃん、ここへおりといでよ。 」
子ねこは、黄色いひとみでちらりと下を見ただけで、さっさと歩いていってしまいました。
「 ぼくからにげていかないで。ぼく、おまえがすきなんだよ。 」
スニフはさけびましたが、子ねこは、どんどん遠くへ歩いていくばかりです。岩山の下には、波がうちつけていました。
スニフは、こんなにこわい思いをしたことがありませんでしたし、自分をこんなに勇敢だと感じたこともありませんでした。
彗星がおちてくる予測の晩、人々は、ムーミン谷をはなれ、スニフが見つけたどうくつへ、ひっこしをはじめました。
スニフは森の中をぬけるあいだじゅう、ずっと子ねこをよびつづけていました。
そして、とうとう見つけました。子ねこは、こけの上にすわって、からだをなめていたのです。
「 おや、元気かい? 」
と、スニフは、やさしくいいました。
ねこは、からだをなめるのをやめて、かれのほうを見ました。スニフは、そっと近づいていって、手をさしだしました。ねこは、すこしにげました。
「 ぼく、おまえにあいたかったよ。 」
スニフはそういって、もう一度、手をのばしました。子ねこは、手のとどかないところへ、ぴょんととびのきました。かれが子ねこをかわいがってやろうとするたびに、子ねこはよけましたが、にげていってしまうことはありませんでした。
「 彗星がくるんだよ。ぼくたちについて、どうくつへおいで。そうしなきゃ、おまえはぶっつぶされちゃうぞ。 」
こう、スニフはいいました。
「 いやよ。 」
といって、子ねこはあくびしました。
「 くるって、やくそくするね。やくそくしなきゃだめだぜ。八時までにだよ。 」
スニフは、きびしくいいました。
「 ええ、いきたいときにいくわ。 」
旅からかえる子どもたちのためにムーミンママがつくっていたデコレーションケーキには、チョコレートで「 かわいいムーミントロールへ 」と書いてありましたが、「 かわいいスニフへ 」とは、書いてありませんでした。しかも、もう八時をすぎているのに、子ねこはきません。
スニフは、むしょうにかなしく、はらがたって、子ねこをさがしにどうくつからかけだしていってしまいました。
森のおくへくるまで、こわいのもわすれていました。森の木は、赤い紙から切りぬかれたように見えました。
かれは、むねをどきどきさせながら、いっそう森のおくへはいっていき、みんながどれほどいじわるしたかを考えていました。
とたんに、子ねこが、しっぽをぴんとたてて、スニフのほうへやってきました。
「 ふん。 」
スニフは、そっけなくいって、とおりすぎました。ところが、しばらくすると、なにかやわらかいものが、足にさわるのを感じました。
「 そうか、おまえか。おまえは、どうくつへくるとやくそくしておいて、こなかったじゃないか。そんなやつ、知るものか。 」
と、スニフはいいました。
「 ね、ほら。わたし、やわらかいでしょ。 」
と、子ねこがいいました。
スニフは、返事をしませんでした。子ねこは、のどをならしはじめました。その音だけが、しずまりかえった森の中にきこえました。
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