若い生活をしている者は若いし、
老いた生活をしている者は老いている。
by : 井上靖
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greetings - feeling is free
スノークのおじょうさんが、大きな石をつかんで、アンゴスツーラになげつけました。ところが、なげかたがへただったので、ムーミントロールのおなかへ、ぶつけてしまったのです。
「 あらっ、たいへん。わたし、あの人をころしてしまったわ。 」
と、おじょうさんは、ひめいをあげました。
「 女の子って、そんなものさ。 」
と、スニフはいいました。
だけど、ムーミントロールはいっそう元気づいて、とうとう、アンゴスツーラを切り株だけにしてしまったのです。それから、ナイフをおりたたんで、いいました。
「 これでよしと。一巻のおわり。 」
「 まあ、あなたはほんとにつよいのねえ。 」
スノークのおじょうさんがささやきました。
「 なに、これぐらいのことは毎日やってるよ。 」
ムーミントロールは、こともなげにいいました。
「 ぼくがまもってあげる。さあ、いいものをあげますよ。 」
こういってムーミントロールは、金の足輪をさしだしたのでした。
「 まあ。 」
スノークのおじょうさんはあんまりよろこんだので、からだがすっかり黄色くなりました。
「 わたし、これをさがしまわってたのよ。ほんとに、うれしいわ。 」
彼女は、すぐにそれをつけると、からだをくねらせたり、頭をまわしたりして、自分がとれぐらいすてきになったかを見ようとしました。
ムーミントロールは、スノークのおじょうさんの前髪を、じっと見ていました。ムーミンママには、前髪がありません。だから、前髪というものを、まだ見たことがなかったのです。
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虫をたべるおそろしいアンゴスツーラの一種が、スノークのおじょうさんのしっぽをつかまえて、生きてうごく手で、ゆっくりとたぐりよせているところでした。いうまでもなく、彼女はおそろしさのあまり、むらさき色にかわって、死にものぐるいでわめいていました。 スノークの女の子にも、こんな声が出せるのかと思われるくらいに。
「 すぐいくよ、すぐいくよ! 」
と、ムーミントロールはさけびました。
「 これをもっていけよ、きっと役だつから。そしてな、あいつをおこらせるんだ。 」
こういってスナフキンが、ナイフをわたしました。せんぬきとねじまわしのついたナイフでした。
「 やい、この炊事ブラシめ。 」
ムーミントロールがどなりましたが、アンゴスツーラは、平気の平左でした。
「 ひょっとこやろう、おいぼれねずみ。おまえは、死んだぶたのひるねのゆめみたいなやつだな。 」
するとアンゴスツーラは、みどり色の目をぜんぶムーミントロールのほうへむけて、スノークのおじょうさんをはなしました。
「 しらみのさなぎめ。 」
そうさけぶと同時に、ムーミントロールは目にもとまらぬ早わざで、アンゴスツーラの手を切りおとしました。
ムーミントロールは、しっぽをいさましくふりたてて、ときどきアンゴスツーラに切りかかっては、つぎからつぎへと、にくまれ口をあびせかけました。
「 すごいなあ! あんなにたくさん、悪口をいえるなんて。 」
と、スニフは感心してさけびました。
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ムーミントロールは、鉄砲玉のように走りだしました。
「 まってくれ。ぼく、ついていけないよ。ああ、うう。 」
スニフは、命づなにおなかをしめつけられて、文句たらたらでしたが、しまいには、わめきながら地面をひきずられていきました。けれども、ほかのふたりは、走るのをやめません。
「 ちくしょう、こんなやつは、早くはずせよ。 」
と、ムーミントロールはおこりました。
「 きみ、わるいことばをつかったな。 」
と、スニフがいいました。
「 それがどうした。ひめいをあげているのは、スノークのおじょうさんなんだぞ。ぼくはちゃんと知ってるんだ。 」
「 まあまあ、ふたりともおちつけよ。 」
スナフキンはナイフをだして、つなを切りました。
ムーミントロールは、足がみじかいのに、せいいっぱいの速さで、かけだしました。
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「 あれは、なんだろ。 」
「 ダイヤモンドかい? 」
と、スニフは、ききました。
「 どうも、小さなうで輪らしいぞ。 」
というと、ムーミントロールは、霧の中をまっすぐに進みました。
スナフキンがどなりました。
「 気をつけろ! あれはたしかにがけっぷちだぞ! 」
ムーミントロールは、ゆっくりゆっくりとすすみました。はらばいになって、がけっぷちにのりだすと、手をのばしながらさけびました。
「 つなをもっててね。 」
スナフキンとスニフは、ありったけの力でつなをつかみ、ムーミントロールは、がけっぷちから、いっそうからだをのりだしました。それから、やっとうで輪をつかんで、もどりました。
「 こりゃ、金でできてるぞ。スノークのおじょうさんは、左の足に金の輪をはめてると、いわなかった? 」
ムーミントロールがききました。
スナフキンは、かなしそうに答えました。
「 うん。あのきれいなおじょうさんは、あぶない場所へ、いつも花をつみにいくらしいよ。 」
「 その女の子は、きっともう、ジャムみたいにつぶれちゃってるよ。 」
と、スニフがいいました。
かれらは、しょんぼりと歩きつづけました。
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「 ぼくがすこしまえにあったスノークたちのことは、話したっけ? 」
「 話さないよ。スノークって、なあに? 」
スナフキンは、びっくりしていいました。
「 きみ、ほんとにスノークのこと、知らないのか。あいつたちは、きみの親類にちがいないぜ。よくにてるもの。もっとも、きみは色が白いし、あいつたちは、いろんな色をしていて、おまけに、こうふんすると、色がかわるけどね。 」
ムーミントロールは、おこった目つきでいいました。
「 そんなやつと、親類なもんか。色がかわるようなやつとなんか、親類じゃないよ。ムーミントロールは、一種類しかないし、色は白いんだ。 」
でも、スナフキンは平気な顔です。
「 とにかくね、このスノークたちは、きみとよくにてるんだよ。形のことだかね。
スノークたちは、計画をたてたり、原因をしらべたりするのがすきで、うるさいくらいのときもあるよ。かれの妹は、きいてることはきいているがね、なにかほかのことを考えているんだと、ぼくは思うよ。まあ、自分のことでも考えてるんだろう。
あの子は、やわらかできれいなうぶ毛に、すっかりおおわれていて、前髪まであるのさ。いつでも、そいつにブラシをあててるよ。 」
「 ばかなやつだなあ。 」
と、ムーミントロールはいいました。
「 さあ、それでどうなったの? 」
と、スニフがたずねました。
「 ああ。べつになにもおこらなかったさ。スノークの妹は、だれかがおなかをわるくすると、小さなはらまきを草であんで、心のこもったスープをつくってやるんだ。それから、耳のうしろには花をかざっているし、左の足には金の輪をはめてるよ。 」
「 そんなの、お話じゃないよ。ちっともスリルがないもの。 」
と、スニフが大声をあげました。
「 からだの色をかえるスノークと、うまれてはじめてあったのに、きみはそれをスリルだと思わないのか。 」
こういってから、スナフキンはまたハーモニカをふきはじめました。
「 女の子は、みんなばかだよ。きみだって。 」
と、ムーミントロールはいいました。そして、ねぶくろの中にもぐりこみ、顔をテントの布のほうへむけて目をつぶりました。
けれども、その晩かれは、自分ににたスノークの女の子に、耳のうしろへかざる花をプレゼントしている夢を見たのでした。
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小さな動物のスニフは、岩山のてっぺんをひとりでぶらついている子ねこを見つけました。
黒と白がまだらになっているねこで、とても細いしっぽを、ぴんとはねあげていました。スニフは、うれしくてうれしくて、むねがしめつけられるほどでした。
「 ねこちゃん。にゃんこちゃん、ここへおりといでよ。 」
子ねこは、黄色いひとみでちらりと下を見ただけで、さっさと歩いていってしまいました。
「 ぼくからにげていかないで。ぼく、おまえがすきなんだよ。 」
スニフはさけびましたが、子ねこは、どんどん遠くへ歩いていくばかりです。岩山の下には、波がうちつけていました。
スニフは、こんなにこわい思いをしたことがありませんでしたし、自分をこんなに勇敢だと感じたこともありませんでした。
彗星がおちてくる予測の晩、人々は、ムーミン谷をはなれ、スニフが見つけたどうくつへ、ひっこしをはじめました。
スニフは森の中をぬけるあいだじゅう、ずっと子ねこをよびつづけていました。
そして、とうとう見つけました。子ねこは、こけの上にすわって、からだをなめていたのです。
「 おや、元気かい? 」
と、スニフは、やさしくいいました。
ねこは、からだをなめるのをやめて、かれのほうを見ました。スニフは、そっと近づいていって、手をさしだしました。ねこは、すこしにげました。
「 ぼく、おまえにあいたかったよ。 」
スニフはそういって、もう一度、手をのばしました。子ねこは、手のとどかないところへ、ぴょんととびのきました。かれが子ねこをかわいがってやろうとするたびに、子ねこはよけましたが、にげていってしまうことはありませんでした。
「 彗星がくるんだよ。ぼくたちについて、どうくつへおいで。そうしなきゃ、おまえはぶっつぶされちゃうぞ。 」
こう、スニフはいいました。
「 いやよ。 」
といって、子ねこはあくびしました。
「 くるって、やくそくするね。やくそくしなきゃだめだぜ。八時までにだよ。 」
スニフは、きびしくいいました。
「 ええ、いきたいときにいくわ。 」
旅からかえる子どもたちのためにムーミンママがつくっていたデコレーションケーキには、チョコレートで「 かわいいムーミントロールへ 」と書いてありましたが、「 かわいいスニフへ 」とは、書いてありませんでした。しかも、もう八時をすぎているのに、子ねこはきません。
スニフは、むしょうにかなしく、はらがたって、子ねこをさがしにどうくつからかけだしていってしまいました。
森のおくへくるまで、こわいのもわすれていました。森の木は、赤い紙から切りぬかれたように見えました。
かれは、むねをどきどきさせながら、いっそう森のおくへはいっていき、みんながどれほどいじわるしたかを考えていました。
とたんに、子ねこが、しっぽをぴんとたてて、スニフのほうへやってきました。
「 ふん。 」
スニフは、そっけなくいって、とおりすぎました。ところが、しばらくすると、なにかやわらかいものが、足にさわるのを感じました。
「 そうか、おまえか。おまえは、どうくつへくるとやくそくしておいて、こなかったじゃないか。そんなやつ、知るものか。 」
と、スニフはいいました。
「 ね、ほら。わたし、やわらかいでしょ。 」
と、子ねこがいいました。
スニフは、返事をしませんでした。子ねこは、のどをならしはじめました。その音だけが、しずまりかえった森の中にきこえました。
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夕方になって、五十ぴきものニョロニョロが、東のほうへむかって、川をわたっていくのが見えました。
「 ことしは、あいつら、おそいんだな。
きみはニョロニョロを近くで見たことがあるかい?
あいつらは、ものもいわないし、ひとのことも
気にしちゃいないんだ。両手をふりながら、ずっと
遠くをにらんで、どんどん進んでいくだけなんだよ。
パパがいってたけどね、ニョロニョロたちは、
どうしても思ったところへいきつけなくて、
いつもどこかを あこがれてるんだって ‥ 」
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朝のコーヒーのあとで、じゃこうねずみはベランダの
テーブルの上へ、宇宙ぜんたいをつくってみせてから、
「 これが太陽だぞ。 」
といって、さとういれを指さしました。
「 このビスケットが、みんな星さ。そして、この
パンくずが地球でな。どうじゃ、この小さいことは!
宇宙は、どこまでもつづくほど大きいのにな。宇宙は、
まったくの暗やみさ。その暗やみの中に、
怪物がうごめいておるのじゃ。
こういうことは、わしらにはどうにもならん。それなら、
それを哲学的にうけとるのがよいのだ。 」
「 こういうことって? 」
と、ムーミントロールは大声をだしました。
「 もちろん、地球がほろびることさ。 」
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スナフキンのおかげで、旅はたいへんたのしいものになりました。
かれは、みんなの知らないメロディーをきかせたり、
カードあそびや、さかなつりをおしえたりしました。
ほんとうとは思えない、とほうもない話もしました。
「 彗星というのはね、ひとりぼっちの星で、気がくるってるのさ。
それで、尾をひきながら宇宙をころげまわってるんだ。 」
「 スナフキン、なにか歌をふいてよ。かなしいのがいいよ。 」
「 ハーモニカは、だめになってしまったよ。ちょっとだけしか、鳴らないんだ。 」
と、スナフキンはいいました。
「 ふうん、それでもふいてよ。 」
そこでスナフキンは「 こまったこまった 」の歌をふいたのです。
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「 だれでも、すっかり安心していられる谷なんだよ、あそこは。
目をさますときはうれしいし、晩にねるのもたのしいのさ。 」
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ムーミン谷には、これといった産業はありません。
住人たちは農作物や海産物を収穫しながら自給自足
をしますが、通貨はあります。
住まいもすべて手作りで、村役場に建築許可証を
申請すれば自由に建てることができます。
科学技術力は高く、おさびし山の山頂にある
天文台の学者たちは、谷に落ちてくる彗星の日時を
正確に予測しました。
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いよいよ旅に出発する日の朝、ムーミントロールは
たいへん早く目をさましました。
「 危険な星を観測して、
宇宙がほんとに黒いかどうか、しらべるんだ 」
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